2024/02/04 19:08
日本酒MANDOBAは、土づくりから米づくりを経て、酒づくりに至るまで、自然や生態系によって醸された、「自然のめぐりが醸す酒」です。
新潟県上越市安塚の棚田で無農薬の米をつくってきたデザイン会社「U・STYLE」が、同じ上越市内の酒蔵「竹田酒造」と出会うことで酒づくりに辿りつき、実現しました。農薬・化学肥料不使用での酒米づくりや企画、デザインをU・STYLEが担い、生酛・蔵付酵母での醸造を竹田酒造が担いました。
◯米をつくるデザイン会社 U・STYLE
私たちU・STYLEは、新潟のデザイン会社です。私たち“らしさ”のひとつは、地域に根をはり、地域の価値創出や継承のデザインに取り組んできたこと。その地に身をおき、人とつながり、歴史や文化に直接触れ、その土地にある小さくても価値あるものや、見過ごされてきたものを、私たちなりの視点で見つけ出し、よりよく未来へつなぐことに取り組んでいます。
数年前から、上越市安塚地域の棚田の美しい風景を繋いでいくために、耕作放棄地になっていた棚田を引き継ぎ、私たち自らの手で、農薬・化学肥料不使用でお米を作っています。
U・STYLE
◯地域ブランド「里山ボタニカル」
2020年には里山再生を目指し里山ボタニカルという地域ブランドを立ち上げ、収穫したお米や、田の周辺で採れた植物・木の実をケーキやお茶などに商品化してとどけてきました。里山に、小さくても持続的な経済を生み出しながら里山の自然環境の再生にもつなげていくことを目指しています。
里山ボタニカル
https://www.satoyama-botanical.com/
U・STYLEが安塚で米づくりを始めるまで
◯上越市安塚区のこと
酒のもとになる米づくりの舞台は、新潟県上越市安塚。安塚は、U・STYLEの代表の松浦和美の故郷でもあります。長野県との県境、低い峰々が連なる山間にある雪深い里山です。縄文の頃から人が暮らしていたという安塚の地には、稲作を中心とした里山文化が根付いています。山の地形に沿って段々になって広がる棚田。仏壇には山からとってきた朴の葉に赤飯を包んでお供えしたり、豪雪の冬には雪室で食材を貯蔵したり。家を建てるときも、自分の山から切り出した木で建てていました。季節に寄り添い、自然をとり込んだ営みが育まれ、人と自然が作用しあいながら里山は守られてきました。
◯安塚の里山の今 〜美しい里山が失われてしまう危機感〜
そんな安塚地域も、日本各地と同様に少子高齢化や農業の担い手不足という課題に直面しています。高齢化の進行などにより農業や林業の担い手は減少し、やむなく手放され荒れてしまった田畑も散見されます。
「人が自然に働きかけて生まれた空間である」とされる里山。人と自然がよりよく関わりあうことで生まれる調和は、崩れ始めているようにも見えています。いつしか、美しい里山のみならず、そこにつながれてきた自然と共にある美しい暮らしや文化ごと消滅してしまうのでは...。実はそれまで「安塚でできることなどあるのだろうか...」と関わることに積極的ではなかった私たち。しかし、そんな危機感の芽生えから、これまでのデザイン活動で培ってきた知識や経験を使って何かできることがあるのではないかと考えはじめるようになりました。
◯まずは小さな一歩から。私たちが始めた、米づくり。
この地で耕作放棄された田んぼを引き継ぎ、無農薬でお米を作るようになったのが2019年のことです。「この地の課題をすべて解決する力はないけれど、デザインという灯りを手に、自分なりにできることを」と一歩を踏み出しました。最初の年はヒエにまみれ、イノシシに入られるなど数々の洗礼を受けましたが、少しずつ経験を積み、除草の道具なども揃えながら、経験を積んできました。
米づくりへのこだわり 〜微生物や生態系の力を活かす土づくりから〜
山奥にある安塚は、朝夕の寒暖差が大きく、古くから美味しい米がとれる地域です。米は日中と夜の温度差が大きいほど、デンプンやアミノ酸の生成や蓄積が進み、粒が大きく美味しくなります。真冬には、3メートル以上の積雪があることもあり、豊かな雪解け水を与えてくれます。鉄分などミネラル豊富な粘土質の土壌は、米づくりに適しています。
・古くは地滑りによって作られた、地下水や鉄分の豊富な土壌
古くは地滑り運動により地層が深く攪拌され、傾斜が緩く地下水を豊富に含んだ土壌。また、酸化鉄を含有する泥岩の地層は、稲の生育に不可欠な鉄分を豊富に供給します。
・豊富な雪解け水
毎年豪雪が降る安塚は、豊富な雪解け水に恵まれています。土中に浸透した雪解け水は、ケイ酸や植物養分、酸素を豊富に含む湧水として山肌から染み出し、田んぼの脇の溜池に常に流れ込みます。
◯微生物や生態系の力を取り込んだ、私たちの酒米作り
私たちが栽培するのは酒造好適米の五百万石という新潟生まれの品種です。酒米作りにおいて、私たちは、自然の作用や微生物の力を最大限に活かすことを最も大切にしています。そのために年間を通して、自然の再生にもつながる土づくりをしています。
・前年の秋のうちに米糠や籾殻燻炭を入れる
前年の秋のうちに栄養豊富な米糠や燻炭にした籾殻を田にすき込み、土壌の養分を高めます。籾殻燻炭には微細な空洞が無数にあり、微生物たちにとっては心地の良い住処となります。また籾殻はイネの生育に必須なケイ酸を豊富に含みます。
・冬水たんぼで生まれる「トロトロ層」
私たちの田んぼは、冬場も水を張った状態で越冬します(冬季湛水)。冬水たんぼの中では、微生物からイトミミズ,メダカ,カエルなど多様な生物が増加します。微生物たちによって、秋に撒いた米糠や籾殻などの有機物の分解も促進され、土壌への養分の吸収率も高まり肥沃な田になっていきます。イトミミズの糞からは、雑草を抑える「トロトロ層」が形成され、イネの生育を助けてくれます。
・微生物を活性化する土壌改良資材(有機JAS適合)
250種類もの好気性土壌微生物を配合した、有機JAS適合の土壌改良資材を、糖蜜とブレンドして使用しています。有機物を強力に分解する土壌善玉菌や、植物の生育を強くする微生物を厳選して配合した土壌改良資材で、稲の健全な発根や生育を促しています。
◯戻ってきた豊かな生態系とともに。人と生き物の好循環が、良い米をつくる
米作りをして5年目になりますが、田んぼの周辺にはホタルや絶滅危惧種系の生き物がもどってきています。また、その環境や生態系を求め様々な人が遠方からわざわざ訪れてくれるようになり、里山に少しずつ活気や営みが戻ってきています。
◯農薬も化学肥料も使わない米作り 田植えから一ヶ月間続く除草作業
農薬も化学肥料も使わない米作りは、田に生えてくる草とのたたかいです。草を放置すると稲の栄養が奪われてしまい、米の味や収量が著しく落ちてしまいます。それを防ぐため、5月の田植えから一ヶ月間は、毎日が除草の日々。一番根気と体力が必要な作業ですが、これを乗り越えることで稲は力強く育っていきます。
◯酷暑も乗り越える、生命力あふれる一等米
安塚の恵まれた風土と土壌で、土づくりから徹底的にこだわった棚田米。土地や土壌、生態系の力をかりて力強く育った生命力あふれるお米です。
2023年は猛暑・少雨の影響により、同じJA管内のコシヒカリの一等米比率は1割以下とも報道されていました。そんな状況の中、私たちのお米は全て一等米の等級を得ました。
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につづく